第一原理分子動力学シミュレーションを利用した炭素ナノ材料の成長機構解析


 グラフェンやカーボンナノチューブは、電子の移動度が非常に高いことや構造的に極めて強靭であるなど際立った特徴を持っており、様々な場面での活用が期待されています。しかし、その生産方法は未だ発展途上にあり、今後より高品質、大サイズのものを安定的に得られるようになるためには詳細な成長機構の理解が必要となってきます。そこで私は、主に第一原理電子状態計算を用いて、これら炭素関連物質について原子一つ一つを追った詳細な成長機構解析を行っています。例えばグラフェンを得る方法の一つとして、シリコンカーバイド(SiC)基板表面からシリコン原子を熱脱離させ、その後に残った炭素原子がエピタキシャルグラフェンになる方法がありますが、このメカニズムを、大規模計算機を用いた1000原子規模の第一原理分子動力学計算によって直接的に理解しようとしています。(11-2n)ファセットと(0001)テラスを持つSiC基板をコンピュータ上で再現し、そこから意図的にシリコン原子を抜きながら高温の分子動力学シミュレーションを行いました。図1はシミュレーション前後のSiC表面を模式的に描いたもので、表面が削られていく様子をイメージしています。この条件下でシミュレーションを進めて行くと、図2のようにもともとSiC内にあった炭素(黄)が余り、炭素―炭素ネットワーク(赤)を形成しグラフェンの前段階となる小さな員環構造を作り始めていることが分かります。
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図1 SiC基板表面のイメージ。シミュレーション中は、(11-2n)ファセットから徐々にSi原子を抜いていっているため、この面が後退し、それに伴って(0001)テラスの位置も移動している。
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図2 ある程度分子動力学シミュレーションが進んだ後のSiC表面の様子。青はシリコン原子、黄は炭素原子を、そして赤は炭素−炭素結合を持つ炭素原子を指す。

 また上記のSiC基板上でのグラフェン成長機構解析の他にも、素材メーカ、鉄鋼メーカ、電線メーカなどの研究者の方々から物性物理にまつわる様々な最前線の実験結果をお持ちいただき、共同(受託)研究というかたちで理論面からの現象の理解を担当しております。



p04.gif 論文リスト
  1. "Structural Stability and Electronic Structures of a Curved Graphene Sheet on Stepped SiC(0001) Surface", Youky Ono, Jun Nara, and Takahisa Ohno, Journal of the Physical Society of Japan, Vol. 85, No.3, pp.034707, 2016.
  2. "Stability Study of Ring-like Sheet of Ag Atoms Wrapping a CNT", Katsumi Hagita, Youky Ono, and Syogo Tejima, Journal of the Chinese Chemical Society, Vol. 63, pp.***, 2016. (accepted)
  3. "Contribution analysis of the van der Waals term on electronic structures of carbon related systems", Youky Ono and Takahisa Ohno, Applied Surface Science, Vol. 267, No.15, pp.173, 2013.
  4. "Van der Waals Interactions for Isolated Systems Calculated Using Density Functional Theory within Plasmon-Pole Approximation", Youky Ono, Koichi Kusakabe, and Takashi Nakayama, Journal of the Physical Society of Japan, Vol. 79, No.7, pp.074701, 2010.
  5. "Conduction properties of a distorted buckled carbon nanotube in the vibrational normal mode" Youky Ono, Nobuhiro Kusuno, Koichi Kusakabe and Naoshi Suzuki, Japanese Journal of Applied Physics, Vol.48, pp.045001, 2009.
  6. "The Effects of Encapsulated Fullerene on Dynamical Properties of a Peapod", Yuuki Ono, Koichi Kusakabe and Naoshi Suzuki, Journal of the Physical Society of Japan, Vol. 74, No.2, pp. 626-630, February, 2005.
  7. "Theoretical study of vibrational normal modes of fullerene encapsulated nanotubes", Yuuki Ono, Koichi Kusakabe and Naoshi Suzuki, Proceedings of the 9th Asia Pacific Physics Conference (9th APPC), Globe Publishing House, Hanoi, Vietnam, October 25-31, 2004.
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小野 裕己
(一財)高度情報科学技術研究機構 (RIST)
計算科学技術部
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兵庫県宝塚市出身、大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程修了(2007年3月)。千葉大学、東京大学、物質・材料研究機構を経て現職。物性物理、特に第一原理電子状態計算の手法開発および、炭素関連物質を中心とした物性の理論解析を行っている。


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