スパコンを活用した産業に役立つ材料シミュレーションの研究


 2002年に出現した我が国の地球シミュレータは、米国ではコンピュートニクという新語を生み出すまでに驚異的に高い性能を有し、それを境に人類のスパコンに対する認識を変えてしまいました。ほぼ時を同じにして、2001年、米国はナノテクノロジー国家戦略、ナショナル・ナノテクノロジー・イニシアティブ(NNI)を発表し、産学官連携で「ナノテクノロジー」を国家の戦略的研究分野に定められました。この起源はある人物の一つの講演にあります。リチャード・ファインマンが1959年にカリフォルニア工科大学でのアメリカ物理学会で「There's Plenty of Room at the Bottom」という講演を行いました。そこでは、「原子数個というナノスケール領域では、マクロな世界とは全く違う性質が現れるだろう」と指摘し、その研究が「人類にとって大変重要である」と主張しました。彼はその研究を行うことは、人類にとって大変重要なことだと主張していました。そしてファインマン氏の予言はその後約半世紀を経て徐々に現在に至り実現されつつあります。
 私がRISTで入社したとき、この2つの事柄が大きく関わり、現在まで「スパコンを活用したナノテク材料シミュレーション」にずっと取り組んでいます。
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 ナノテクシミュレーションを始めた当時、ナノテクの代表例はカーボンナノチューブ(CNT)でした。これまで炭素原子からなる材料は、3次元構造をもつダイヤモンド、2次元構造をもつグラファイトの2つだけと思われてきましたが、CNTやフラーレン等の数ナノのサイズからなるナノ炭素クラスターが発見されました。CNT間の原子結合はダイヤモンドより強いと共有結合の理論では予測しているので、その性質を評価するために、CNTの機械特性(引張、圧縮、座屈、オイラー座屈、CNTバンドル)をシミュレーションで実施しました。さらに、熱伝導や、その表面がπ電子による得意な電子構造を持つことによる、水素吸蔵、セシウム吸着、等のシミュレーションなども実施しました。まさに、ナノ構造体だけが持つ性質を知ることになりました。
 これらの大規模計算を短時間で実行できるようにプログラムの最適化、並列化などにも取り組み、さらに、地球シミュレータの威力によって、パソコンなら10年以上かかる計算を、数時間で完了することが可能になっています。
 これらの成果は、「カーボンナノチューブ研究会」を立ち上げ、地球シミュレータの公募を利用して研究課題「カーボンナノチューブの特性に関する大規模シミュレーション」のもと実施いたしました。  数年前から、「アクアイノベーション拠点(COI)- 信州大学」に参企し、信州大学が得意とするカーボンナノチューブを利用して、これまで耐性が十分でなかった水処理膜(海水から塩分、不純物を除去し真水を得るための膜)を、ロバスト炭素膜から合成しようという試みを、実験とシミュレーション(COI信州大学が購入したスパコン(FX10、インテル)を利用)とが連携して取り組んでいます。このプロジェクトは「造水・水循環システム」の社会インフラを構築するまでが目的で、プロジェクトのリーダーが日立製作所、東レ、信州大学から選出されているのが特徴です。このように、「社会インフラに役立つシミュレーション」を実施しています。
 更には、最初に共同研究を結んだ企業は、株式会社本田技研研究所(和光)でした。CNTを応用した新材料のシミュレーションを地球シミュレータの産業戦略利用プロジェクトで進めてきました。近年は、素材メーカ、鉄鋼メーカ、金属メーカ、電線メーカとの共同研究により、共同研究を実施しています。「なぜ、そのような現象が起こるのか?メカニズムを理解して現象を制御したい」といった相談を持ちかけられ、シミュレーションでその解が得られないかと、「世の中に役立つシミュレーション」に挑んでおります。
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fig.2: 炭素原子だけからなるナノ炭素構造
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fig.3: CNTが座屈を起こした瞬間
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fig.4: CNTが引っ張られ、6員環が解け鎖状になる瞬間
p04.gif 参考文献

地球シミュレータ利用報告会
「カーボンナノチューブの特性に関する大規模シミュレーション」


平成24年度http://www.jamstec.go.jp/esc/projects/fy2012/21-nakamuras.html
平成23年度http://www.jamstec.go.jp/esc/projects/fy2011/19-tejima.html
平成22年度http://www.jamstec.go.jp/esc/projects/fy2010/21-tejima.html
平成21年度http://www.jamstec.go.jp/esc/projects/fy2009/17-tejima.html
平成20年度http://www.jamstec.go.jp/esc/projects/fy2008/20-tejima.html
平成19年度http://www.jamstec.go.jp/esc/projects/fy2007/21_minami.html
平成18年度http://www.jamstec.go.jp/esc/projects/fy2006/40_minami.html
平成17年度http://www.jamstec.go.jp/esc/projects/fy2005/31_minami.html
平成16年度http://www.jamstec.go.jp/esc/projects/fy2004/228_minami.html
平成15年度http://www.jamstec.go.jp/esc/projects/fy2003/116_minami.html


「地球シミュレータ産業戦略利用プログラム」利用成果報告書

平成26年度 
環境負荷低減に向けたナノカーボン材料に関する大規模シミュレーション
日本ゼオン株式会社
https://www.jamstec.go.jp/es/jp/project/sangyou_report/H25_ZEON_jp.pdf

平成22年度
非Si系太陽電池材料の安定構造の解析を基にした高効率化研究
株式会社本田技術研究所
https://www.jamstec.go.jp/es/jp/project/sangyou_report/H22_HONDA_jp.pdf

平成21年度
非Si系太陽電池材料の安定構造の解析を基にした効率化研究
株式会社本田技術研究所
https://www.jamstec.go.jp/es/jp/project/sangyou_report/H21_HONDA_jp.pdf


アクアイノベーション拠点(COI)- 信州大学

プロジェクト体制
http://www.shinshu-u.ac.jp/coi/about/system.php

RISTに関連したプレス発表
http://www.shinshu-u.ac.jp/coi/news/2015/11/cntparoro.php


p04.gif 雑誌

「ナノ炭素構造体の大規模シミュレーション」計算工学 Vol.9 No.4 P.1028-1031 (2004)
「カーボンナノチューブの大規模シミュレーション 」 応用物理 Vol.74 No8. P.1045-1051 (2005).
「曲面量子系Mackay結晶の大規模シミュレーションとその応用」 表面科学 Vol.30 No.12 P.673-679 (2009)
「CNTのセシウム吸着の可能性」 化学同人 Vol.67 No.11 P.30-31 (2012)


p04.gif 論文リスト
  1. Takumi Araki, Rodolfo Cruz-Silva, Syogo Tejima, Kenji Takeuchi, Takuya Hayashi, Shigeki Inukai, Toru Nogushi, Akihiko Tanioka, Takeyuki Kawaguchi, Mauricio Terrones and Morinobu Endo, Applied Material & Interfaces, 2015, 7, 24566
  2. Shigeki Inukai, Rodolfo Cruz-Silva, Josue Ortiz-Medina, Aaron Morelos-Gomez, Kenji Takeuchi, Takuya Hayashi, Akihiko Tanioka, Takumi Araki, Syogo Tejima, Toru Noguchi, Mauricio Terrones, and Morinobu Endo. Scientific Reports 2015, 5, 13562
  3. First-principles study of the effect of charge on the stability of a diamond nanocluster surface Noejung Park, Sungil Park, Nong-Moon Hwang, Jisoon Ihm, Syogo Tejima, and Hisashi Nakamura Phys. Rev. B 69, 195411 – Published 20 May 2004
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手島 正吾
(一財)高度情報科学技術研究機構 (RIST)
153-0061
東京都品川区北品川2-32-3
六行会総合ビル7階
tel: 03-6433-0670
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1964年千葉県生まれ、1996年東京理科大学理工学研究科博士課程修了、理学博士。 (株)東芝で重電に従事、動力炉核燃料開発機構(現日本原子力研究開発機 構)で研究員を経て、2000年から、現職。 専攻は物性物理。現在、「アクアイノベーション拠点(COI)- 信州大学」に参企し、ロバストカーボン膜による高機能水処理膜の開発、メカニズム解明を実験グループと連携して取り組んでいる。さらに、企業との共同研究で、産業に役立つシミュレーションーを目指している。


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