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室温超伝導に向けて  〜地球シミュレータによる新しい超伝導体の探索〜

最近、室温超伝導への挑戦がクローズアップされています。超伝導体が発見されてから75周年に当たる1986年に、スイスのベドノルツとミュラーが酸化物高温超伝導体を発見しました。その後、Tcが窒素の融点(-196℃)を優に越える銅酸化物が続々と発見され、室温超伝導も夢ではないと思われていました。しかし1993年のTc=-138℃の水銀系酸化物が発見されて以降、Tcの記録更新は止まったままです。
室温超伝導への挑戦には、新しい理論に基づいた室温超伝導物質の探索が必要であり、この目的のためには立木らによって提案された新理論(Phys. Rev. B67, 174506(2003))が有望であるように思われます。彼らの理論の要点は、格子振動に起因する強い電荷ゆらぎによって電子間に引力が働くことです。この理論に基づいた物質探索には、数千個以上の原子を対象にした量子力学的な大規模シミュレーションが不可欠で、その実現には大規模で高性能なスーパーコンピューターが必要になります。
そこでわれわれは、地球シミュレータを利用した大規模シミュレーションによる室温超伝導体の探索を目的として、次の3つのコードを開発しました。(i) 強結合分子動力学シミュレーションのためにPVCRTMD(Parallel Vector Carbon Recursion Technique Molecular Dynamics)、(ii) 電子間の有効相互作用解析のためにLSDRF(Large Scale Dielectric Response Function)、(iii) 超伝導転移温度解析のためにDEES(Dyson-Eliashberg Equation Solver)。
以下でこれらの3つのコードについて簡単に説明します。

(i) PVCRTMD
PVCRTMDは、有限温度の大規模分子動力学シミュレーション向けに開発され、炭素原子から成る系に特化にしたコードです。対象にしている系の電子状態が強結合ハミルトニアンから計算されるので、原子間力の量子力学的多体効果が必然的に考慮されています。 PVCRTMDコードを使用すると、様々な状況下にある炭素原子の時間発展を得ることができます。シミュレーション結果の応用のひとつにフォノンのスペクトル状態密度の計算があります(図1を参照)。
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図1 計算されたフォノンのスペクトル状態密度
ピークの位置は運動量-振動数面上に実線で示す。
PVCRTMDコードは地球シミュレータ上で性能がでるように最適化されています。 例として、図2に地球シミュレータの130のノード(1040PEs)での性能を示します。
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図2 4096の原子のシステムのためのPVCRTMDコードの性能
(ii) LSDRF
格子変位が小さいことが、固体の示す電気的、熱的、および超伝導の特性を決定する際に調和近似が有効であることを保証します。しかしながら、非常に軽い原子が重要であるか、あるいは調和的な復元力が非常に小さいとき、非調和効果が重要であるかもしれません。また、非調和な運動によりイオン振幅が大きい格子を取り扱うとき、線形な電子・格子結合だけでなく、非線形な電子・格子電子結合も考慮に入れることが必要なのは明らかです。
定量的な議論をするためには、格子振動の非調和性と電子・格子結合の非線形性を同時に扱うのが望ましいです。しかしながら、これらの2つの効果を理論に取り入れた研究はこれまでありません。そこで強結合分子動力学シミュレーションを線形応答理論と結合することによって、誘電応答関数を非摂動的に計算する手法を確立し(図3を参照)、その実行のためにLSDRFコードを開発しました。また強相関電子系を扱うために、乱雑位相近似の範囲内でCoulomb相互作用の効果を取り入れました。
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図3 電子系の誘電応答関数
Πelは格子振動のない電子系からの寄与。Iphは格子振動によって引き起こされたスペクトル関数。
(iii) DEES
電子ドーピングされたC60でおよそTc =40Kの超伝導が発見され、新しい種類の超伝導体の代表として大いに注目されています。最近、ホウ素でドーピングされたダイヤモンドとCaC6が超伝導性を示すことが報告されました。そしてごく最近、完全終端多層カーボンナノチューブがTc =12Kの超伝導を発現させることが実証されました。これらの発見は炭素系物質で高温超伝体が存在する可能性を示唆しています。
われわれは炭素系物質での超伝導の観点から、PVCRTMDコードとDRFコードを実行して得られたミュレーションの結果を用いてTcとギャップ対称性を求める計算コード(DEES)を開発しました。Tcとギャップ対称性は、Dyson方程式とEliashberg方程式を解くことによって決定されます。ファインマン図の言語で言えば、正常グリーン関数は同じ方向の2つの矢で表され、異常グリーン関数は外に向いた2つの矢で表されます。 図4の(a)と(b)がそれぞれDyson方程式とEliashberg方程式です。
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図4 (a) 正常グリーン関数に対するダイソン方程式
(b) Eliashberg方程式
波線は電子間の有効相互作用を示します。
電子間の有効相互作用は誘電応答関数で割られた裸のCoulomb相互作用で定義されます。最も重要な量は、Tcとギャップ対称性なので、Eliashberg方程式は異常グリーン関数に関して線形化しました。するとEliashberg方程式は固有値問題に帰着します。すなわち、MX=λX。ここでXはギャップ関数に対応し、Mは1粒子グリーン関数と有効相互作用の関数です。TcはカーネルMの最も大きい固有値λ最大が1を交差する温度として決定されます(図5を参照)。
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図5 線形化されたEliashberg方程式の固有値の温度依存性を大まかに描いた図
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中村 賢
(財)高度情報科学技術研究機構 (RIST)
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学歴: 平成 9年 3月 東京理科大学大学院理工学研究科物理学専攻博士後期課程修了

学位: 平成 9年 3月 理学博士(東京理科大学)修得。論文名「スピンゆらぎに基づく超伝導と次元性」

職歴: 東京理科大学理工学部物理学科 授業嘱託(非常勤)、東京大学リサーチアソシエイト、東京理科大学理工学部物理学科 嘱託助手、山口東京理科大学基礎工学部電子・情報工学科 嘱託助手を経て、平成17年4月より現職

受賞 平成11年8月 強相関電子系に関する国際会議(SCES99NAGANO)「The SCES'99 Outstanding Poster Prize」受賞 links.gif
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