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Large-scale simulation of complex phenomena

私は、先端科学技術における複雑現象解析のための大規模シミュレーション技術の研究をおこなっております。超伝導素子、地震等の先端科学技術における複雑現象は、非線形現象でありかつスケールの異なる現象が絡んだマルチスケール現象であるため、その解明にはシミュレーションが有効です。しかし、その解析は、ill(悪条件マトリクス)、stiff(硬い)、マルチスケールであるため、高度な解析技術と大規模シミュレーション技術が必要となります。私の研究では、超伝導素子、地震を対象として、その解析技術と大規模シミュレーション技術を研究し、それを応用し新しい科学的知見を得ています。以下に、超伝導素子開発に関するシミュレーション研究を紹介します。

大規模シミュレーションを活用したテラヘルツ発振超伝導素子に関する研究

 テラヘルツ波は光と電磁波の中間域(0.3〜10THz)にあり、物質中の様々な励起振動数がテラヘルツ帯域に集中しているため、例えば、通信利用帯域拡大に向けたテラヘルツ帯デバイス開発のためのキャリア励起現象等の解明に、プラスチック爆発物、また環境、食物中の汚染物質の検出等に応用が期待される(図-1)。しかし、分析、検出に優れる連続波光源として、量子カスケードレーザ等があるが、1〜4THzで低出力のため、実用の計測・分析には、広帯域で単色、周波数可変、またmW級の高出力を得られる新光源が必要である(図-2)。本研究では、磁場中のナノスケールの高温超伝導体に直流電流を印加するとジョセフソンプラズマが励起し連続波テラヘルツ波として発振するという理論(図-3)とシミュレーション(図-4,5)予測を基に、ナノ高温超伝導体による連続波テラヘルツ波の発振研究を地球シミュレータ等の大規模並列計算機を用いて研究する。これまでに、シミュレーションにより発振メカニズム(図-6)、発振条件、素子から放射されるテラヘルツ波の特性(図-7)が明らかになっている(図-7)。現在、このシミュレーションを基に、国内では筑波大学グループが実験を行い、データより発振現象の兆候を認めており、また、米国でもアルゴンヌ国立研究所等のグループが実験を開始している。
今後、産業界がテラヘルツ発振素子などを開発するためには、幅広い数多くの影響因子から最適発振条件を求めることが必要である。このため、地球シミュレータを活用した大規模シミュレーション解析が精力的に続けられている。
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図-1 連続波テラヘルツ波の有用性
医療、テロ対策、環境対策等に役立つことが、また信号の搬送波として利用電波の周波数帯を拡大するため、情報通信技術のさらなる拡大・発展に繋がることなどが期待されている。このため、米国、欧州でもテラへルツ発振の研究開発が盛んになってきている。
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図-2 連続波テラヘルツ波の応用の課題
テラヘルツ波の発振方式として、これまで有機非線形光学結晶、p型Geレーザ等、パルス波方式が開発されてきたが、周波数スペクトルが幅広く、低い平均出力しか得られない等の実用課題を抱えてきた。また、パルス波方式よりも優れ応用性も高いが発振技術が難しい連続波を得るために、量子カスケードレーザ、後進波管、光混合法等が開発されたが、最も有用な1〜4THzでナノワット級の低出力となる欠点があり、新方法による連続波のテラヘルツ波発振技術の開発が課題であった。
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図-3 高温超電導体を用いたテラヘルツ発振の解析モデル
そのような背景のもと、立木らは、1994年に、ナノスケールの高温超伝導体に磁場と直流電流を印加することによりテラヘルツ波を発振できるという理論を発表し、連続波のテラヘルツ波発振技術開発の基盤として、高温超電導体の新奇機能が見えてきた。立木らの理論はテラヘルツ波を連続波として発振する可能性を示したが、研究者が安定かつ高出力で発生する条件を実験のみから得ることは困難であった。その理由は、このテラヘルツ波発振は、電磁場を印加された高温超伝導体内部において発生するジョセフソンプラズの励起に関わる特異な非線形現象であるため、数多くの影響因子が複雑に絡み合いその最適な発振条件を実験的に求めるのは相当に難しいためである。そこで、シミュレーション解析が試みられたが、図-1に示すようにナノスケールの厚みを持つ素子の発振現象を解析するため、空間スケールは10Åから数百μmまで、時間スケールでは10asから数nsまでと幅広いスケールを扱い、時間ステップでは108回、また空間スケールで、数百万セルを扱う膨大な計算となり、地球シミュレータ以前の計算機では到底処理できる解析では無かった。そこで2002年の地球シミュレータの高性能計算能力の実現により、ようやく立木理論の大規模なシミュレーションが可能となった。
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図-4 高温超電導体を用いたテラヘルツ発振の概念図
高温超伝導体は、超伝導層と絶縁体層を層状に重ね合わせた構造を持つ結晶(Bi2Sr2Ca Cu2O8+δの場合、超伝導層は3Å、絶縁体層は12Åの厚みを持つ)で、超伝導層に挟まれた絶縁体層はナノスケールのジョセフソン結合となり、結晶全体では自然に多連結したジョセフソン結合系となっている。その高温超伝導体に外部磁場を印加し、層方向直流電流を流す素子系をモデル化し、固有ジョセフソンプラズマというジョセフソン電流と電磁波が結合したエネルギーの高い状態(励起状態)の波が生成されそれが素子外部へ放射する非線形現象をシミュレーションしたのである。
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図-5 高温超電導体の固有ジョセフソン現象の基礎式
本現象の基礎方程式は、真空中の4元ベクトルポテンシャルで記述した共変形式の電磁場の運動方程式と似た式となる。本現象の場の基本的自由度と電流密度は、4元ベクトルポテンシャルPと4元電流密度J。高温超伝導体での電磁場テンソルとMaxwell方程式、電場と磁場の式はこのように書ける。この方程式から4元ポテンシャルの成分毎に波動方程式を求める。電流保存則をゲージ条件に取りゲージを固定すると、1つ目の成分に関して電荷の波動方程式が、残りの3つの成分から、超伝導層内の運動Pylと層方向の運度量Pzl+1,lの波動方程式が得られる。これらが解くべき方程式となるのだ。
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図-6 テラヘルツ発振メカニズム
励起されたジョフソンプラズマは高温超伝導体の内部において素子端面で反射し、定在波となり、そのエネルギーは定在波中に蓄積していく。蓄積されたエネルギーがある閾値を超えると、テラヘルツ波の連続波として外部へ放射されることが分かった。また、発振には、超伝導体中の量子磁束の乱雑性を含む分布が関与していることが分かった。
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図-7 高温超電導体から放射されたテラヘルツ波の特性
さらに、放射されるテラヘルツ波の特性に関して、高温超伝導体表面から放射する連続テラヘルツ波の放射強度が、例えば図-7(左)に示すように、電気伝導度のパラメータが0.03の場合、電流が0.9〜1.2(周波数で約2.2〜3.0THz)の広い範囲にわたり1000W/cm2級の出力であること、図-7(右)に示すように、外部直流電流を変化させ高温超伝導体に印加される電圧を変化させるだけで発振するテラヘルツ波の周波数スペクトルのピークが連続的に移動し発振周波数を容易に変更できコヒーレントな周波数特性を有する連続波を得ることが可能であることも明らかになった。
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図-8 大規模計算の有効性
 これら新奇特性を大規模シミュレーションから明らかに出来たことの理由として、従来の小規模なシミュレーションは、線形化された解とその非線形項の摂動解、または素子の層数が数10層、長さが10μm、時間で0.1ns程度の周期境界条件を使った素子の部分的解析であり非線形現象が把握できなったことが考えられる。
 これに対し、本研究では、高温超伝導体素子とテラヘルツ波が発振する周囲空間を含めたシステムシミュレーションとし、また素子については超伝導層数が数百、長さが従来の10倍、素子が外部と接続する境界を持つ現実的なモデルとした。また、非線形現象に強く影響する素子内に現れる磁束量子の数は十分に増やし従来の小規模シミュレーションの百倍以上とした。また、量子磁束の運動が準安定状態になるように、シミュレーション時間を数億時間ステップとなる数nsまで拡大した。さらに、計算精度と大規模な時間、空間メッシュでの計算を効率的に行えることを重視し、保存性が良く計算量も比較的少ない中心差分法を時間、空間離散化に適用している。加えて最も重要な点は、本シミュレーション規模が例えばパーソナルコンピューター (2GHz)で1ケース(約1億ステップ計算)あたり約2年もかかるものにもかかわらず、160プロセッサを用いて1ケース12時間で解析可能とした地球シミュレータの高速演算性能を利用できたことである。超伝導方程式とMaxwell方程式の連成解析では、5点差分演算と3重対角行列演算が主となり、この演算がプロセッサで短時間に処理されてしまうためスカラー計算機ではデータの供給が間に合わずプロセッサが遊んでしまい、実効性能が数%に低下する。しかしデータ供給能力の高い地球シミュレータでは20%程度の実効性能を得ることが出来たのである。
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飯塚 幹夫
(財)高度情報科学技術研究機構 (RIST)
計算科学技術部
主任研究員
153-0061
東京都品川区北品川2-32-3
六行会総合ビル7階
tel: 03-6433-0670
fax: 03-6433-0673
Query on this homepage, please mail to iizuka@tokyo.rist.or.jp


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1956年群馬県生まれ、1981年東京大学工学研究科修士課程終了。川崎製鉄(株)、(株)情報数理研究所、日本建設コンサルタントを経て、1998年から現職。専攻は機械工学。現在、地球シミュレータを使い、大規模ナノテクノロジーミュレーションの研究を実施。


p04.gif 査読付き論文
[第一著者]
  • Mikio Iizuka, Hiroshi Okuda and Genki Yagawa, Nonlinear Structural Subsystem of GeoFEM for Fault Zone Analysis, Pure appl. Geophys. 157, 2105-2124, 2000.
  • Mikio Iizuka, Digo Sekkita, Hisashi Suito, Mamoru Hyodo, Kzurro Hirahara, David Place, Pete Mora, Osam Haxzama, and Hiroshi Okuda, Parallel simulation system for earth quake generation:Nonlinear fault analysis modules and parallel coupring analysis, Concurrency Computat.: Pract. Exper. 2002, 14, 499-519.
  • 飯塚幹夫,奥田洋司,矢川元基, GeoFEMによる大規模並列弾塑性解析,日本計算工学会論文集, Vol.1, 63-68, 1999.
  • 飯塚幹夫,奥田洋司,矢川元基,反復法ソルバーの構造解析問題における収束性の評価、日本計算工学会論文集, Vol.2, 233240,20000.
  • 飯塚 幹夫、手島正吾、南 一生、宮内敦、中村賢、牧野浩二、立木昌、中村寿、地球シミュレータを活用した新奇材料特性シミュレーション、応用数理
[共著]
  • Suito, H., Iizuka, M., and Hirahara, K. (2001) 3D viscoelastic FEM modeling of crustal deformation in Northeast Japan, Pure Appl. Geophys., 159, 2239-2259.
  • 平原和郎、水藤尚、兵藤守、光井能麻、飯塚幹夫、殷峻、加藤尚之、宮武隆、堀高峰、GeoFEM地震サイクルシミュレーション、月間 地球 特集:固体地球シミュレータ計画、海洋出版株式会社、694-698、2003/9.
  • Tachiki.M,Iizuka.M,Minami.K, Tejima.S and Nakamura H., Emission of continuous choherent terahertz waves with tunable frequency by intrinsic Josephson junctions, Phys. Rev. B 71,(2005), 134515.
  • Tachiki.M,Iizuka.M,Minami.K, Tejima.S and Nakamura H., Emission of continuous terahertz waves by high Tc superconductor, Physica C.,(2005),426-431.
  • 手島正吾、中村壽、カーボンナノチューブの大規模シミレーション、特集「ナノテクノロジー/ナノサイエンス」、計算工学、 Vol.9 No.4 22 (2004).
  • 手島正吾、南一生、飯塚幹夫、中村壽、カーボンナノチューブの大規模シミュレーション、特集「応用分物理における計算科学の現状と将来展望」、応用物理 第74号第8号,(2005), 1045-1051.
p04.gif 講演論文
  • Mikio IIZUKA, GeoFEM:Multi-Purpose Parallel FEM for Solid Earth(4) Complex Earh Structure Analysis,Proceedings of the Conference on Computational Engineering and Science, JSCES,Vol.3, No.1, 97-98, 1998.
  • 飯塚幹夫,奥田洋司,矢川元基, 大規模並列有限要素法における接触解析,日本計算工学会講演論文集, Vol.4, No.2, 649-652, 1999.
  • Miko IIZUKA, Kazuteru GARATANI, Kengo NKAJIMA, Hisashi NKAMURA, Hiroshi OKUDA, Geinki YAGAWA, GeoFEM: High-Performance Paralle FEM Geophysical     Applications, ISHPC99, Second  Intenal Symposium Proceedings, High Performance Computing, Lecture Notes in Computer Science 1615, 292-303, 1999.
  • 飯塚幹夫, 水藤尚, 兵頭守, 平原和朗, 奥田洋司, 「GeoFEM による3次元不均質場での地震サイクルの大規模粘弾性解析」, 日本計算工学会計算工学講演会論文集, Vol.6, pp.623-624, 東京, 2001.
  • Tejima S., Noejung P., Miyamoto Y., Minami K., Iizuka M., Nakamura N.and Tomanek D., Large scale simulations for carbon nanotubes, High Performance Computing and Grid in Asia Pacific Region, Japan (2004),502.
p04.gif 特別講演、新聞記事
  • 飯塚幹夫, 擬似圧縮性による非圧縮粘性熱流体ソフトFlowTrekの開発, RC105ハードの進展に対応した最新の熱流体数値解析技術分科会, 1993/5.
  • 飯塚 幹夫, 固体地球プラットフォームGeoFEM、SS研科学技術計算分化会第1回会合、2001/8.
  • 飯塚 幹夫(RIST), Giri Prabhakar(RIST), 平原 和郎(名古屋大学), 奥田 洋司(東京大学) , 地震シュミレーションにおける 断層解析技術:基礎方程式, 接触解析技術等, 第24回LA研究会, 2002.
  • 飯塚 幹夫, 中村 寿, 超大規模計算科学の必要性・有効性, 第53回理論応用力学講演会, NCTAM2004
  • 飯塚 幹夫, テラヘルツ素子に関するシミュレーション, 情報処理学会連続セミナー 2004, 第4回地球シミュレーター, 2004/10.
  • M.Iizuka, H.Nakamura, M.Tachiki, Large scale simulation for the generating mechanism of continuous terahertz waves through the nano-scale high-temperature-superconductor(HTC) device, SC2004 Workshop Friday, November 12.
  • 飯塚 幹夫, 手島正吾, 南一生, 中村賢, 牧野浩二, 中村寿, 地球シミュレータが拓き始めた新材料開発, No.06-06 JSAE SYMPOSIMU 進化し続けるバーチャル開発, 2006/2/23.
  • テラヘルツ波放射機構, 条件を解明(PRB出版時), 日刊工業新聞(2005/3/31), 日経産業新聞(2006/4/4)
p04.gif 特許取得件数(申請中も含む): 1件

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