革新的ロバスト炭素膜シミュレーション


 RISTは文部科学省が平成25年度からスタートした「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)」の拠点の1つ、信州大学を中心とする「世界の豊かな生活環境と地 球規模の持続可能性に貢献するアクアイノベーション拠点」に参画し、私は現在このCOIの中で実験チームの作成した水処理膜に対してシミュレーションを行っています。主に古典分子動力学を用いて、膜の構造モデル、透水性、脱塩性能の解析を行っています。
 その中の1つ、カーボンナノチューブ(以下CNT)と芳香族ポリアミドの高性能複合水処理膜に関して、信州大学で合成が成功し(論文2)、シミュレーションによりナノレベルでの膜の構造、透水性、脱塩性能を明らかにしました(論文1,図1、2参照)。
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図-1 CNT入りのポリアミド膜(左)と従来のポリアミド膜(右)の透水シミュレーション
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図-2 CNT入りのポリアミド膜(上)と従来のポリアミド膜(下)の脱塩シミュレーション

 シミュレーションの結果、CNTが内部に存在する場合でも従来のポリアミド膜単体の水の拡散係数に近い値が得られます(図1,a),b),c),d)参照)。これはCNTが水の拡散を大きく阻害しないことを意味します。CNTの一番大きな影響は、ポリアミド部分のフレキシブル性への影響であり、CNTが存在する場合にはポリアミド部分が動きにくくなっています(図1,e),f)参照)。ポリアミド単体の場合、ポリアミドを構成する炭素は激しく動くのに対し、CNT複合膜の場合にはポリアミド部分は動きづらくなっており、このポリアミド部分の拡散の抑制が塩の除去率に影響すると考えられます。実際に塩の侵入率をシミュレーションしたところ、CNT入りのポリアミド膜は塩が中に侵入しづらい結果となりました(図2参照)。
 このような透水、脱塩シミュレーション以外にも、油分の吸着シミュレーションも行っています(図3参照)。これは信州大学で開発した天然黒鉛から得られる膨張黒鉛(空隙の大きい黒鉛)を使った一次随伴水処(論文3)を想定したシミュレーションで、油が選択的に膨張黒鉛に吸着する様子を再現しています。解析の結果、吸着のメカニズムは黒鉛(グラフェン)と油分子の間のファンデルワールス力だけでなく、油分子を水/黒鉛界面に押し出す疎水性の性質も大きく寄与していることが分かりました。
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図-3 油滴が選択的に膨張黒鉛に吸着する様子

p04.gif 論文リスト
  1. Takumi Araki, Rodolfo Cruz-Silva, Syogo Tejima, Kenji Takeuchi, Takuya Hayashi, Shigeki Inukai, Toru Nogushi, Akihiko Tanioka, Takeyuki Kawaguchi, Mauricio Terrones and Morinobu Endo, Applied Material & Interfaces, 2015, 7, 24566
  2. Shigeki Inukai, Rodolfo Cruz-Silva, Josue Ortiz-Medina, Aaron Morelos-Gomez, Kenji Takeuchi, Takuya Hayashi, Akihiko Tanioka, Takumi Araki, Syogo Tejima, Toru Noguchi, Mauricio Terrones, and Morinobu Endo. Scientific Reports 2015, 5, 13562
  3. Kenji Takeuchi, Masatsugu Fujishige, Hidenori Kitazawa, Noboru Akuzawa, Josue Ortiz Medina, Aaron Morelos-Gomez, Rodolfo Cruz-Silva, Takumi Araki, Takuya Hayashi, Mauricio Terrones, Morinobu Endo, Journal of Water Process Engineering 8, 91-98(2015)
  4. Takumi Araki ,Katsurou Hanzawa, Journal of the Physical Society of Japan,Vol. 80, 2011, pp. 114702
  5. Takumi Araki ,Katsurou Hanzawa, Journal of the Physical Society of Japan,Vol. 80, 2011, pp. SA143
  6. Kazunori Tanaka, Takumi Araki,Katsurou Hanzawa, Physical Review B, Vol. 82, 2010, pp. 134435
  7. Kazunori Tanaka, Takumi Araki,Katsurou Hanzawa, Journal of the Physical Society of Japan,Vol. 80, 2011, pp. SA128
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荒木 拓海
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1982年東京生まれ、2012年東京理科大学理工学研究科博士課程修了、理学博士。2012年に現職。現在COI STREAM・アクアイノベーション拠点にRISTが参画し、実験に対応した水処理膜のシミュレーションに従事。


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